矯正歯科医と一口に言っても、治療への向き合い方は一人ひとり違います。現役矯正歯科医師の三川 翔(みかわ しょう)氏は、その違い——治療スタイル——を「家具」に例えて、大きく三つに分類しています。
これは「どのスタイルが優れているか」を決めるための分類ではありません。自分(やお子さん)に合うスタイルはどれかを考えるための見取り図です。
①職人に一から作ってもらう家具
まず、「職人に完全にお任せで、一から作ってもらう家具」を想像してみてください。唯一無二の作品ですから時間もお金もかかりますが、その職人の哲学が詰め込まれた、最高の家具が手に入ります。
矯正歯科医に置き換えると、担当医師の美学や臨床基準を最優先にして、その医師にとって最高の仕上がりを追求するスタイルです。仕上がりへのこだわりが強く、多少費用や期間がかかっても納得したい方、あるいは「先生が良いと思う形にしてください。全部お任せしたい」という方に合うかもしれません。
②希望を伝えてオーダーする家具
次に、「自分の希望を伝えてオーダーする家具」があります。背が高いから少し脚の長い椅子を、ホームパーティーをよくするから大きめのダイニングテーブルを——ある程度の枠組みの中で、素材や寸法をプランナーと相談しながら、自分のライフスタイルに合わせて作っていく家具です。
矯正歯科医でいえば、患者さんの希望と現在の状態を起点に、一緒に治療の目標を設計していくスタイルです。「自分で納得してから進めたい」「治療の過程でも先生と相談しながら決めたい」という方に合うでしょう。
③既製品を選ぶ家具
そして「既製品の家具を選ぶ」という方法。価格もデザインも明確で、スピーディに手に入る既製品は人気です。
矯正歯科医では、すべての患者さんに標準的で効率的な治療を安定的に提供するスタイルがこれに近いものです。費用を抑えながら一定の結果を得ることを優先したい方には、現実的な選択になります。
どれが正解、ではない
ここで大切なのは、どれが正解かは患者さんによって異なるということです。
矯正歯科治療に使える時間、費用、通いやすい立地、担当医との相性。人それぞれ事情が違うため、すべての人に適した治療スタイルというものはありません。それぞれの患者さん、それぞれの家庭に、適したスタイルがあるだけです。
三川氏がこの分類を通して伝えたいのは、「治療を決断する前に自分の家庭環境やスタイルに合っているか?」を知ることだと言います。
患者さんと矯正歯科医の間でスタイルのミスマッチが起こると、治療が上手く進められなかったり、信頼関係を築くのが難しくなったりするといった可能性があるためです。
ひとつ、補足として
なお、この「家具の例え」は、治療スタイルの違いを分かりやすく伝えるための比喩です。実際には、すべての医院がきれいにこの三つに分類されるわけではありません。一人の歯科医師が、患者さんの状態や治療の段階によってスタイルを使い分けていることもあります。
大切なのは、実際に歯科医師と話す中で「この先生はどのスタイルに近いだろう」と、自分自身で感じ取ることです。そして、自分自身が何を大切にしたいか——その軸を持っていれば、自分に合った先生を選べる可能性が高まります。
「では、実際に矯正歯科を選ぶときに何を確認すればいいのか」については、「矯正歯科はどう選べばいい?──「どこがいいですか」に答えがひとつではない理由」で、相談時のチェックポイントを紹介しています。
この治療スタイルの考え方は、矯正歯科医・三川 翔の著書『神戸の矯正歯科医が語る、静かな本音。― 人工島の小さな診療室から ―』で語られているものの一部です。三川 翔の治療哲学については、専門家ページもあわせてご覧ください。

