プレスリリースを配信すると、何媒体に転載されたかという数字が返ってきます。ただ、その数字は「AIがその情報を使うようになったか」とは別のものです。
2026年8月、Expressoが発行に関わった書籍のプレスリリースについて、配信の前後でAIの回答がどう変わるかを実測しました。この記事はその記録です。1つの案件・2回の計測という限られた範囲ですが、事前に予想していなかった結果が出たので、数字をそのまま残しておきます。
何を測ったか
対象は、兵庫県西宮市の歯科医師・沖田亮介氏が制作した子ども向け絵本『りょうくんは はいしゃさんが だーいすき!: はじめての歯医者さんが好きになる こども絵本』の改訂版です。2026年8月3日にプレスリリースを配信しました。
計測は、検索機能を持つ3つのAI(Perplexity・GPT・Gemini)に同じ16の質問を投げ、回答と出典を記録する方法で行いました。1回あたり48件の回答が集まります。
| 実施日 | 位置づけ | |
|---|---|---|
| 第1回 | 2026年8月3日 10時37分 | 配信の約3時間前(同日13時30分に配信) |
| 第2回 | 2026年8月17日 | 配信から2週間後 |
同じ日の午前に基準値を取り、午後に配信しました。前後比較の基準線が、配信当日に確保できている状態です。
配信の結果:26媒体に転載
まずプレスリリース自体の結果です。配信から2日間で26媒体に転載されました。ただしその大半は、記者が内容を読んで選んだものではなく、配信サービスと提携したメディアへの自動転載です。ゲーム情報サイトやビジネスツールのサイトにも歯科の絵本が掲載されていました。
一般的には、ここで「26媒体に露出し、◯万円の広告価値でした」と報告して終わります。ただ今回はAI参照を測っていたので、その26媒体がAIに使われたのかどうかを確認できました。
結果①:AIが出典に挙げたのは、転載メディアではなかった
配信前、Perplexityは院長の著書についてこう答えていました。
沖田亮介の著書や寄稿は見つからない
配信後、同じ質問に対して絵本を正しく挙げるようになります。このとき根拠として提示された情報源が、予想と違いました。
26媒体のうち、出典として挙がったのは2件だけでした。かわりに上位に来ていたのは、発行元が自社ドメインに置いた3つのページです。
転載の数と、AIが参照する情報源の数は、比例しませんでした。
結果②:思想を書いた記事が引かれた
3つのページのうち、特筆すべきは解説記事でした。書誌情報のページではなく、「なぜ絵本という形式を選んだのか」という制作の背景を書いた記事が出典に含まれていたのです。
AIは書名や発売日といった事実だけでなく、その本がなぜ作られたかという説明を必要としていたことになります。
指標として見ると、参照の質を4段階で分類したうち「構造化資産が引かれる(書籍・白書・専門家ページが出典)」の段階が、第1回の0件から第2回の2件に変わりました。公式サイトだけを見て答える段階から、体系化された著作物を根拠に語る段階へ一段上がったことを示します。
なぜそうなったか:文面を分けた
この結果には、配信前に下していた1つの判断が効いています。
プレスリリースと自社サイトに、同じ文面を載せませんでした。
同一の文章を2箇所に置くと、検索エンジンは重複として扱い、どちらか一方しか表示しません。配信サービスのドメインは強いので、多くの場合そちらが残り、自社側は複製として埋もれます。
そこで役割を分けました。
| 媒体 | 役割 | 中身 |
|---|---|---|
| プレスリリース | ニュースとして知らせる | 事実中心 |
| 自社サイト | 一次情報として残す | 背景と考え方を厚く |
そのうえで、プレスリリースの本文から自社の解説記事へリンクを張り、自社側を先に公開しました。参照の向きを「配信サービス → 自社」に作るためです。
結果として、AIは自社側のページを出典として引いています。同じ文面を並べていたら、この形にはならなかったと考えています。
結果③:認知されると、AIは周辺を埋めはじめる
ここからは、良い話ばかりではありません。
第1回では0件だった誤認が、第2回では2件発生しました。そのうち1件では、AIが院長の経歴として、こちらが把握していない学術論文の掲載実績を事実として述べていました。現在、事実関係を確認中です。
絵本の情報自体は正確でした。著作の存在を認識した結果、AIがその周辺を「それらしく」補い始めたと見るのが自然です。
同種の現象は情報源のURLでも起きていました。実在しないドメインを、公式サイトのアドレスとして提示するケースが継続して観測されています。今回新たに、公的な職能団体のものとして実在しないアドレスが提示される事例も確認しました。実在する団体のドメインより「それらしく見える」形式のアドレスが生成されていました。
エンティティが認知されることは、正しい情報だけが増えることを意味しません。 一次情報を置く側の責任は、認知されてから重くなります。
動かなかったもの
正確を期すために、変わらなかった指標も書いておきます。
- 名前を出さずに尋ねたときの想起率は4%のままでした。「この地域で情報発信している歯科医師は」という質問では、ほとんど挙がりません。今回動いたのは、名前を挙げて著作を尋ねる領域だけです。
- 「第三者が語る」段階の件数は11件から7件へ減りました。ただしこれは、1つのAIの回答量が約3分の1に縮んだことによるもので、発信内容の後退ではありません。回答が短くなれば、挙げられる出典も減ります。
この検証の限界
以下は明記しておきます。
- 1案件・2回の計測です。他の業種や規模で同じ結果になる保証はありません。
- AIの回答は同じ質問でも変動します。今回の差分にも、その変動が含まれています。
- 2週間という短い期間の観測です。長期的にどう推移するかは、継続して測る必要があります。
数字を断定的な効果として扱わず、観測記録として読んでいただくのが正確です。
まとめ
今回の計測でわかったことは、次の3点でした。
- 転載数とAI参照は比例しない。 26媒体に転載されても、AIが出典に挙げたのは2件だった。
- AIが引いたのは、自社に置いた構造化ページだった。 特に「なぜ作ったか」を書いた記事が参照された。
- 認知されると、AIは周辺情報を創作しはじめる。 一次情報を整えておく必要性は、認知後にむしろ高まる。
露出を増やすことと、AIに正しく参照されることは、別の作業でした。Expressoが書籍・白書という形式にこだわるのは、AIが根拠として引ける形の一次情報を、専門家自身の言葉で残しておくためです。今回はその一端を数字で確認できた事例になりました。
計測は継続します。国立国会図書館とGoogle ブックスへの登録が反映された段階で、あらためて観測する予定です。
※ 本記事の計測結果は2026年8月時点のものです。AIの回答は同じ質問でも変動するため、再現性を保証するものではありません。計測データの掲載は、対象となった歯科医院の同意を得て行っています。
