買収前の調査で、財務や経営の課題が分かった。その情報は、買収後に誰が引き継ぎ、どう対処するのでしょうか。
税理士・都 鍾洵(みやこ しょうじゅん)氏の『M&A伴走税理士白書』第4章は、財務デューデリジェンス(DD)からM&Aの実行、買収後の経営統合(PMI)、継続顧問までを一貫した支援として設計しています。発行・編集を担うエクスプレッソ・パブリッシングが、そのつながりを解説します。
01調査の結果を、買収後に使える情報へ
財務DDでは、候補先の財務実態やリスクを確認します。その結果は、買収するかどうか、価格や条件をどうするかという検討に使われます。
第4章で都氏が強調するのは、検証で得た情報が、買収後の経営にも活用できるという点です。白書では中小M&Aガイドライン第3版を参照し、DDで把握した問題点やリスクが、PMIにも役立つことを説明しています。
調査結果を報告した時点で支援が区切られると、その後の担当者は、何を把握し、何を残したまま取引を進めたのかを改めて確認しなければなりません。都氏のモデルは、検証で得た知識をその先の支援へつなぐことで、この情報の途切れに向き合います。
02五つの段階を、連続した仕事として設計する
第4章は、一貫支援を次の流れに整理しています。
- セカンドオピニオン:提案された案件の価格、進め方、リスクを検討する。
- 財務DD:財務実態とリスクを調べ、買収後に対処する課題も整理する。
- M&A実行支援:検証結果とリスクを踏まえ、交渉の助言やスキームの検討を支える。
- PMI:把握した課題への対応を、経営統合の計画と実行へつなぐ。
- 継続顧問:買収後の業績や資金調達、次の成長に関わる経営支援を続ける。
この流れの特徴は、DDやPMIという仕事を並べるだけでなく、前の段階で分かったことを、次の仕事に使う点です。調査で整理した課題を統合計画へ渡し、統合後の状況を継続顧問として確認する。支援の連続性に、モデルの意味があります。
03PMIには、人の問題も含まれる
第4章は、従業員の雇用維持や、労働条件の受け止め方にも触れています。経営陣同士が労働条件を維持したつもりでも、従業員は条件が変わったと受け止めることがあります。
買収後に事業が動くためには、財務の統合だけでなく、人の問題にも目を向ける必要があります。都氏は、この人の問題をDD段階で把握し、PMIで丁寧に対処すべき事項と位置づけています。
財務の数字を確認する仕事が、買収後の経営へつながる。その接点を考えるうえで、人の問題も含めて読むことが大切です。
04「見送る」という結果にも、支援の価値がある
検証の途中で、見送るべき問題が分かることもあります。そのとき、成約しなければ報酬が得られない仕組みだけに依存すると、支援者の経済的利益と助言の方向がぶつかる可能性があります。
第4章では、事前に合意した相談や検証の仕事に対価を設定し、報酬の主軸を成約に依存させないモデルを示しています。顧問先のために見送る助言をした場合にも、検証した仕事を評価する設計です。
一方、都氏は、成長につながる可能性が高い案件で成約を後押しすることも重要だと述べています。進める場合にも、見送る場合にも、顧問先の利益を基準に助言する。その立場を報酬の仕組みからも支える考え方です。
05一貫支援を、専門家の連携で成り立たせる
一貫して支援することは、税理士がすべての領域を単独で担当することを意味しません。
白書は、税理士の財務・税務に関する専門性を軸に、法務は弁護士、労務は社会保険労務士、事業面は中小企業診断士などと連携する体制を示しています。法的な交渉や契約にも、弁護士との連携を明記しています。
顧問先のそばで支援をつなぎながら、それぞれの仕事は適切な専門家が担う。DDから買収後まで関わるためには、支援の期間だけでなく、専門領域と責任の分担も設計する必要があります。
06白書第4章を読む
本記事は『M&A伴走税理士白書』第4章「DD→M&A→PMI 一貫支援モデルの提言」に基づく解説です。白書には、著者による報酬モデル例と、専門家連携の整理も掲載されています。
本記事は著者の提言を紹介するものであり、個別のM&Aの可否や税務判断を示すものではありません。個別の事案は、税理士等の専門家にご相談ください。

